未来のかけらを探して

一章・ウォンテッド・オブ・ジュエル
―4話・動物と意思を交わす者―



一行はエレンに別れを告げて、
以前何処かでもらった魔法の珠で島を出た。
何も考えずに使ってみると、たどり着いたのはトロイアの港町。
そして、大きな問題に直面したのだった。
「えー、お船がないのぉ〜!?」
港の一角で、エルンの甲高い声が響いた。
それというのも、次の六宝珠がある島に船が出ていないせいだ。
サファイアという六宝珠が、ミスリルの村がある諸島の中の小島、
そこにあるレムレースという村にあるという。
しかし、場所を教えておきながら船はないと彼らは言う。
つい最近まで金持ちに取引されていたので、航路などには意外に詳しいらしい。
“そうだ。他の国からの船だって、その島に行くやつは一隻もないぞ。”
エメラルドがあっけらかんと言った。
まるで、ちょっとどこかに行って来る位の調子で。
生き物だったら無責任なやつと認定して張り倒しているところだ。
“お前な……簡単に言うんじゃない!”
ルビーの口調が、初めて話しかけてきたときと180度違う。
どうやら地が出ているらしい。
仲間が居るから、気が緩んでいるのだろうか。
それとも単にぼろが出たのか。
「空飛んでいける距離じゃね〜しー……。」
恨めしげに見上げた空には、のんきにカモメが飛んでいる。
グリモーは、なんだか猛烈に馬鹿にされた気がした。
「それに、今グリモーは飛べないでしょ。
ぼくとエルンは、元々飛べないけどさ……。」
ちなみにモーグリが飛べるといっても、飛べる距離は10mぐらいがせいぜい。
またパサラも飛べる事は飛べるが、かなり遅いというおまけがつく。
『う〜ん・・』
プーレ達は考え込んでしまう。
何かいい知恵はないものだろうか。
しかし、いかんせん経験と知識が足りない頭でいくら考えても、
全く良い案は浮かばなかった。




ああでもないこうでもないと言い合っているうちに一時間が経った。
彼らは、いい加減考えを放棄しかけている。
子供の集中力で一時間も同じ話題が持ったのだから、褒められるべき事かもしれない。
「もういいよー、今日は早く寝ヨ〜。」
パササは考え疲れたせいで、もう何もしたくないらしい。
態度がやけっぱちでいい加減だ。
「どうしようかな……。」
外はすっかり暗くなっている。
元々活動時間が昼中心であるチョコボの体質が、
今の体にも残っているのかプーレも少々眠い。
「あしたにしよーぜ。情報を集めりゃわかるだろー……。」
なんだかんだで、全員のやる気は0だ。
結局その日はすぐに寝てしまった。




―朝・冒険者ギルドにて―


プーレ達は朝一番に宿屋を出てから、町の冒険者ギルドにやってきていた。
冒険者ギルドとは、冒険者達の交流と仕事を斡旋する場である。
もっともこういった施設は大概の場合は酒場がかねており、
こういう専門施設が存在するのはトロイア・ダムシアン・バロンの3カ国くらいなものだ。
それも、首都に一箇所だけというおまけつきで。
「人いっぱ〜いぃ!」
酒場に似た喧騒の中で、男女の冒険者たちが思い思いに過ごしている。
かなりの人の数で、ともすれば人に酔ってしまいそうだ。
「グリモー置いてきて正解だネー!」
確かにそうだと、ほかの二人が深くうなずいた。
もし連れて来ていたら、今頃大暴れしていたかもしれない。
ちなみに当の本人は宿屋で待機している。
「あれ……なんか話してるよ。」
全員、話し声がする方向に耳を向ける。
何やら面白そうな話だ。パササとエルンなどは、今はほとんど動かせない耳がぴくっと震えた。
「聞いたか、ほらあのパラディンたちの……。」
知り合いらしい男性冒険者二人が、壁に寄りかかって話をしている。
「あぁ、無茶苦茶強いバロン出身とか言う奴がリーダーの。」
ちょっと聞いてしまったら、もう最後まで聞かないと収まらない。
全員で盗み聞きに専念していた。
それが、次の目的地に関係がある情報か否かは忘れているらしい。
〔どきどきどき……。〕
次は何を言うのか期待しながら、なおも盗み聞きを続ける。
「おれは今日見たぞ。な〜んか、今回は男ばっかだけど……。」
目の保養にもなんないよ。と言って、片方が盛大なため息をつく。
「うっわ、お前ラッキーだな!で、で、どうだった?!」
しかし、もう一人は対照的に興奮している。
どうやら話に出てくる者達は、かなり有名なようだ。
そう思うと、ますます最後まで聞きたくなる。
「続きぃー……。」
思わずエルンが一言漏らした。
だが先ほどの言葉とは裏腹に、見たという男はもったいぶってなかなか話し出さない。
相手もまた、それを楽しんでいるかのように見える。
(もー、いらいらするなぁ……。)
こっちの気も知らないで。
などと、いささか身勝手な考えまで頭をよぎった。
(あーもー、早くしテー!)
せかせるものなら、どれほどせかしただろうか。
と、やっと話し始める気になったようだ。
「ま、前置きはここまでにしてっと……。
そいつらな、なんでも『飛空艇』ってやつを持ってるらしい。」
バロンの最新技術だぜ。と、まるで自分のことのように自慢している。
「は?ひくうてい??あの、空飛ぶ……?」
話し相手の目も、盗み聞きしているプーレ達の目も点になった。
クエスチョンマークが、頭上にたくさん浮かんでいそうだ。
〔???〕
聞きなれない単語に、一行の頭の中は綴りもわからないその単語で一杯になった。
『飛空艇』。それを相方から聞いた男の反応から、
恐らくそれは乗り物だと一応確信した三人。
それさえ手に入れば、次の六宝珠がある地に行けるかもしれない。
どこにあるかは知らないがいい事を聞いたと全員喜んだ。
すっきりそっちに夢中になり、もう周りの事なんか全く目に入っていない。
まさにその時だった。
「何してんだ、オメーら……。」
『わーーー!?』
全身の毛が、一気に総毛だつほど驚いた。
いきなり背後から声をかけられるとは、思ってもいなかったのだ。
集中していると他に気が回らないのは、獣も人も同じである。
「わっ!こっちが驚くっつーの!!」
甲高い叫び声に少々引き気味な声の主。
振り向いたそこに居たのは、赤茶の毛と薄いオレンジの目の青年。
顔立ちは、目が小さめなせいかどうか、
ぱっと目に飛び込んでくるタイプではなさそうだ。
標準といって差し支えないだろう。
「えっと……だれ?」
相手は、曲がりなりにも大人の男。
見上げなければまともに話せないので、早くも首が痛くなってきた。
「ん?おれはロビン。
店の外に居る、黒チョコボのくろっちと旅してんだ。」
どうやら冒険者のようだ。
まずお約束として、自己紹介を済ませる。
そして、何故か意気投合したのでとりあえず部屋につれてきた。
エルンとパササが盛り上がったせいというべきか。
「ふ〜ん、なーるほど。船がないところにねー……。」
話を聞いて、大体彼らの事情を飲み込んだようだ。
「うん。何かないぃ?」
うーんとうなりながら、ロビンは考え始めた。
それからすぐに、何か思いついたらしく口を開く。
「やっぱし、飛空艇しかねーかな〜……。」
そう独り言のようにつぶやくと、がりがりと頭を掻く。
困ったような顔をしているという事は、あんまり気が進まないのだろう。
「つーか、飛空艇ってなんだよ。」
部屋に居残りだったグリモーは、他の3人からギルドでの話を聞いた。
が、飛空艇など勿論知らない。
残りのメンバーも、こくこくとうなずいて同調する。
「んあ?簡単に言えば、空飛ぶ船だよ。おれの生まれた国にあるぜ。」
一行は空飛ぶ船の姿を思い思いに頭に描きながら、ぱあっと顔を輝かせた。
『ほんとに?!』
でも、トロイアかダムシアンへの定期便しかないんだよな。
と続けたロビンの言葉は、全く耳に入っていなかった。




―翌日―
一行は、ロビンの愛羽とその友人の背に居た。
勿論飛空艇を探しに行くためだ。
「ねー、本当にこっちなのぉ〜?」
森の上を、ひたすら飛んでいくのに嫌気が差してきたらしい。
トロイアは森ばかりで全然景色が変化しないため、
空中から見ているとすぐに飽きるせいもある。
「勘なんて、あてにならねぇよー!」
いつものように、グリモーがかんしゃくを起こしてわめき散らし始めた。
わかってはいるものの、やられるたびにうんざりする。
「そういわないで、がまんしようよ……。」
とりあえず他にどうしようもないじゃない。
と続けて、どうにかたしなめた。
「オメーも苦労性だな〜、おれのダチにもお前みたいなやつが居るぜ。
あー、あいつ何してんのかな〜?」
『あいつ』とは、プーレと同じ苦労性の友人のことらしい。
またあの野郎にからかわれて切れてんのかな、などと言っている。
と、くろっちが主人に何かを伝えてきた。
「(ロビン、居たよ。)」
「ん・・?何、見つけたって?!よし、やったぜ!!」
くろっちの言葉を聞き、ロビンはガッツポーズを決めた。
それをみたパササが驚く。
「おにーちゃん、チョコボの言葉分かるノー!?」
他のメンバーも驚いた。
パササがいきなり叫んだせいもあるが。
「はっはっは、うーまーれーつーき!チョコボだけじゃねぇよ。
話が通じるやつなら、何回か聞けば分かっちまうぜ。」
正に、天賦の才といった所か。他の追随は全く許さないだろう。
天が与えた大きな一物だ。
「すっご〜いぃ!」
「人間かよ・・?」
思わずはしゃいでしまうエルンと、ただただ驚くグリモー。
グリモーの方は、毒気を抜かれたような顔をしている。
「おーい、下りるぞ〜。」
下には数人の人影が見える。
ゆっくりと黒チョコボ達は高度を下げていき、
地上に着いたところで、黒チョコボの背から全員降りた。
空からいきなり現れた一行に、下を歩いていたパーティは驚いた。
「ろ、ロビン!?なんで君がここに??」
先頭を歩いていた、多分このパーティのリーダーだと思われる、薄紫の髪の青年は驚いた。
ロビンと違ってまじめそうで、かつずいぶんと整った顔立ちをしている。
「何だよセシル、居ちゃわりーのかよ〜?」
じと目でセシルと呼んだ青年を見ている。
呼ばれた彼は、困っているようだが。
「いや……陸兵団の隊長が、城を空けてきていいのか?」
「はっ、ちげーよ。追・い・出・さ・れ・た・ん・だ・よ!
おれは冗談っぽく、陛下が亀臭いって言っただけだぞ〜〜!!」
彼はそういうが、十分な禁句だったりした。
多分、追い出されたのはカイナッツオかベイガンに勘ぐられたせいだろう。
「真実だがな……。」
ポツリともらされた竜騎士の青年・カインの呟きを、ロビンは聞き逃していない。
高速でそちらを向いて、露骨に顔をゆがめた。
「げー、何でてめーがここに居るんだよ!!」
「それは俺のセリフだ。」
すでにけんか腰になっている。2人は仲が悪いようだ。
「けんかしてるねぇ……。」
「うん、ロビンおにーちゃん地獄耳ダネ!」
その発言は大当たりだが、パササは気がつかずにケラケラ笑っている。
「あのね、ロビンは、地獄耳・魔物語マスター・百発百中の勘の持ち主なのよ……。」
ローザがこっそりとエルンに耳打ちする。
「えー、百発百中ぅ?!」
エルンはびっくりして思わず大声を上げた。
「そうなの。学生の頃は、『ロビンの勘は予言と同じ』って言われたぐらい、
ロビンは勘が鋭いのよ。実際、一回も外れはなし。」
そのおかげで隊長になれたらしいわよ。
と、ローザは付け加える。
「ねぇ、けんかどうするノ〜?」
もう飽きたのか、つまらなそうにパササがロビンとカインを指差した。
「ほっとけよ……。」
気にしたところで、どうなるものでもないのだが。
結局、気がつけば喧嘩はカインの勝利で終わっていた。
「あの人口げんかに強いね、パササぁ。」
悔しがるロビンを鼻で笑っているカインを見ながら、
エルンは相方に言った。
「うんうん、強い強イ。」
パササも同意してうなずく。
「って、こんなことしてる場合じゃね〜し。
おいセシル、頼みあんだけど。」
「え?なんか嫌な予感がするんだけど……。」
セシルは、少しばかり顔が引きつっている。
今までロビンの頼みはろくでもないものだったようだ。
「また無茶な事かしら……。」
ローザもかなり不安げだ。
「しっつれーだな〜、おい。
ちょっと飛空艇パク……いや、貸してもらおーと思ったのによ。」


「あのね〜、レムレース村に行きたいのぉ〜。」
「う〜ん、でもなぁ……。」
セシルは考え込んでしまった。
友の頼みである。できれば受け入れたいが、彼らにもすべき事があった。
どこで使うか分からない、マグマの石を持っているのだ。
使う場所を探して、次のクリスタルが待つ地底に行かなければ行けない。
「けっ、懐せめーの〜。」
悪態をついてはいるが、ダメ元覚悟だったらしい。
言葉とは裏腹に表情はさっぱりしている。
だが、プーレ達の顔は一気にどんより暗くなった。
「まぁ、君が勘で協力してくれるなら……。」
すっかり落ち込んだ子供たちの様子を見かねたのか、
セシルは少々言葉をにごらせながらも救いの手を差し伸べた。
「え、いいの?」
セシルはうなずいた。勿論、プーレ達は喜んでいる。
どうやら、いい方向に状況は転がったようだ。



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ロビン登場!何気にセシルたちも居たりするけど……。
彼の勘は、どれほどの精度を持つのやら。
全体的な補修とくろっちのセリフを追加(2004/3/17)